ボディポジティブの新しい考え方 byマリアナ LYS
ボディポジティブの新しい考え方 byマリアナ LYS

ボディポジティブの新しい考え方
by マリアナ LYS

日本でも浸透しつつある「ボディポジティブ」。
でも未だ間違った解釈を発信するメディアや、

「体型批判」=「ボディシェイミング」をする人は
後をたたない。
プラスサイズモデルとして活躍し、

多様性の享受を発信するアクティビスト、マリアナ LYSさんに
ボディポジティブの正しい解釈について聞いてみました。

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物心ついたときから
「私は太いんだ」と

「痩せればもっとキレイなのに」周りからそう言われ、思えば幼稚園くらいの頃から自分は太いんだという意識がありました。子供って親の言うことをマネするじゃないですか。だから友達もマネして同じように「マリアナちゃん、丸っこいね」と。20代半ばまで体型に悩んでいて、メンタル面にも悪影響がありました。例えば恋愛しても「こんな体型の私を好きになってくれるんだから、ありがたく思わないと」と、おかしな考えになったり。

ちなみに体型批判=ボディシェイミングって他人よりも親族内で起こることが多いんですよ。私も大人になってからも「そろそろダイエットしたら?」と身内に言われていました。

痩せても変わらなかった
「痩せろ」攻撃

25歳くらいの時かな。とりあえず周りを黙らせよう!と一念発起してダイエットしたんです。糖質制限してジムに通い詰めて、自分にとって理想の体型や体重になれたと。さあもうこれで誰も何も言わないだろうと思ってどや顔だったんです(笑)。そしたら周りの人は「ダイエット頑張ったんだね。でもまだ太ももが太いから、今度は下半身のダイエットだね」と。もう愕然としましたね。これまでないくらい運動して痩せても「まだ周りの人は痩せろと言ってくるんだ」と。

当時からボディポジティブには興味があったんですが、痩せろ攻撃が止まらなかったことで私の頭の中でその考え方がカチッとハマりました。もう周りの言うことを聞くのはやめて、自分がありたい自分でいようと。

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悪気のない体型批判

困ったことに体型批判をするボディシェイマーたちって、実は悪意がない場合がほとんどなんです。「最近どう?元気?」というノリで「あれ?太った」と。見た目って会った瞬間、1秒でわかるじゃないですか。だから、そのまま悪気なく口に出してしまうんですね。もう一つは偏った健康観の押しつけで、「あなたの健康のためを思って言ってるんだよ」と心配を装って言ってくるパターン。でも、見た目でその人の健康はわからないし、その人がメンタル面でどんな問題を抱えているかわかりませんよね。

だから、人の見た目については確固たる意志を持って「何も言わない」ということが大事なんです。

ボディシェイミングを
受けたときの対処法

私が体型批判をされたときは、心の余裕がなければ無視しますが、心の余裕があるときは、その人にきちんと説明します。「あなたの言っていることはむしろ私の健康の悪化につながるので、もう言わないで」とハッキリと。

体型批判をする人に「その発言は間違っている」と指摘することは大事なことだと思っています。なぜなら他人からの何気ない一言で心に傷を負ったり、自己肯定感を持てなくなったり、ときには摂食障害など深刻な健康被害に陥る人もいるからです。そういう辛い思いをする人が少しでもいなくなればいいな、と。

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身体が大きい
=不健康という偏見

もう随分前から日本のメディアでもボディポジティブという言葉が広まってきましたが、ときには間違った考えを啓発しているなと思うメディアもあります。例えば、「自分の身体を愛せるようにダイエットを頑張ろう」とか。本質的なメッセージを理解せずに乱用されているんですね。

私が考えるボディポジティブとは、ひとつは「美の基準を多様化しよう」ということ。美しいとされる体型が、例えば身長何センチで体重が何キロということではなく、いろんな体型が美しさの対象になるんです。二つ目が「細い=キレイ」や「細い=健康」という固定概念に囚われないで、「健康の多様性に目を向けよう」ということ。体重やBMIだけでその人の健康を計れないし、人それぞれ健康と思える体重があり、大事なのは自分がやりたいことができる身体。オリンピックを見ればわかると思うのですが、選手の方はもちろん身体能力に優れていて、いろんな体型の方がいます。身体が大きいから不健康だとはとても言えません。

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運動とボディポジティブの
関係について

私は以前ボクシングジムに通っていて、会員の中でいちばん体重があったと思いますが、パンチングボールのスピードが一般会員の中で一番速いと選手の方に褒められました(笑)。「マリアナはこういう体型だから怠け者だ」というネガティブなレッテルを貼られたとしても、身体を動かすことで「レッテル通りではない」自分を知るのはとても自信がつきましたし、自分で偏見を覆していました。

ちなみに運動をするときはどんな体型であっても「自分が心地良いと思う格好」をすることが大事。他人から与えられたコンプレックや、この身体を見られたくないという恐怖心から以前は私もダボダボのパンツをはいて運動していました。でも、ダボダボのパンツって汗をかくとすごく重くなってめちゃくちゃ動きにくいんです!マインドセットを変えてからは、身体を動かしやすいレギンスを選ぶようになりました。

「体型カバー」「着やせ」
ばかりのファッション

体型の違いだけじゃなくて、日本では「この年代の女性ならこんな格好」と何となく定義されている気がしませんか?暗黙のルールというか。メディアでもまだ「着やせ」とか「体型カバー」という言葉が乱立しているので、もっと自由に体型を見せるファッションになればいいな、と個人的には思っています。身体が大きい人のファッション=「いかに隠すか」「痩せて見せるか」ではなく、「いかにカーブを見せるか」になればもっと楽しいのに!

一人一人が価値観の
アップデートを

今ではコンプライアンスが浸透し、例えばセクハラ的な発言や、「人の容姿に言及しない」などの考えが以前より広まってきたとは思いますが、私はそういう人の心をむやみに傷つけない価値観がもっと広がればいいな、と願っています。ボディポジティブについてもまだまだ誤解や偏見があるので、私も自分の考えをSNSで発信中です。

自分の身体は他人が評価するものではないし、先ほども言ったように、体型などの見た目はその人がどういったことを抱えているかわからないので、「絶対に発しない」というのが大前提。ですが今はまだ、普段何気なく言葉を発し、それに対して責任を持たない人があまりにも多いなと感じます。自分の放った一言がいかに相手に影響を及ぼすのか 。これからの時代は、リアルでもSNS上でも、もっと自分の言葉に対して責任を持つことが必要だと思うのです。

「痩せてるのがキレイ」とされる社会の歪んだ基準に合わせて自分もボディシェイムする有害な人になるのか、相手の身体や存在をリスペクトする人になるのか。人はいつだって自分の行動を選択できます。

じゃあ、あなたはどちらを選ぶ?その答えが、新しい価値観を作っていくんだと思います。

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マリアナ LYS
山梨県出身。幼少期の6年間をアメリカで過ごす。2018年よりプラスサイズモデルやボディアクティヴィストとしての活動をはじめ、東京を拠点に雑誌や広告モデルとして活躍。2023年からアメリカに進出し、NYファッションウィークのランウェイにも出演した。

instagram@mariana.lysxo

staff

  • Photography : Kazuki Maeda
  • Styling : Itsumi Hashimoto
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